2025.06.27
モノづくり
【2025年最新動向】制御盤配線のポイントとは?IoT対応・スマート化の最前線
近年、製造業の現場では自動化・省人化の加速に伴い、工作機械に求められる性能や可用性は高まり、それに伴い制御盤内の機器や配線はさらに増加し複雑化しています。制御盤配線は、「ただの配線作業」ではなく、工作機械全体の稼働率や品質を左右する重要な技術分野であり、機械の信頼性を支える技術です。
さらに、盤の設計段階からノイズ対策・耐振動性・保守性を意識し、IoTやスマート化を意識した配線戦略が制御盤製造現場でも進んでいます。
本稿では、制御盤配線の設計・施工の考え方から、近年のIoTやスマート化の動向、さらには信頼性・効率性を両立するための配線のポイントと最新動向を解説しています。
工作機械向け制御盤の役割と配線の重要性
工作機械における制御盤は、CNCやPLC中心とし 、リレー、ブレーカー、サーボアンプ、インバーター、HMI(入出力デバイス)などの装置を統合制御する「司令塔」の役割を担っています。これらの装置が正確に連携・動作するためには、適切な電力供給と、確実な制御信号の伝達が不可欠です。
そして、その要となるのが、制御盤内の適切な配線です。配線の設計と施工は、制御盤の性能・信頼性に直結する重要な要素です。特に、マシニングセンタやCNC旋盤などの工作機械では、微細な制御信号と強電が複雑に絡み合う構成のため、高度な配線技術が重要です。
一般的な産業装置と比べ、工作機械では以下のような特有の課題があります。
・油・切削粉・振動などの厳しい環境条件
・高速・高精度なサーボモーターの制御信号は繊細のため、ノイズの影響を受けやすい
・多数のI/O点数と通信装置の搭載により、盤内のスペース不足や配線作業の煩雑化
・メンテナンス効率を高める設計配慮
これらの課題をクリアするには、設計段階から緻密な計画が求められます。
また、製造工程の割合について、機械の組み立てと配線(電気部品の組み立てを含む)工程は、全体の約75%を占め、適切な配線設計をすることによる工数・時間の削減について可能性を秘めていることが実証されています。
制御盤配線の設計
工作機械の制御盤では、主に4つの配線の種類に分かれます。不具合のリスク低減やメンテナンスの観点からも、種類ごとの分離は基本原則です。
配線の種類
・電源線(主電源回路)
電気機器に電力を供給するための配線。ブレーカー、PLC、サーボモーターなど、機器が正常に動作するためには、安定した電源供給が必要です(例:単相100V(AC)、3相200V(AC)など)
・動力線(動力回路)
モーターや大きな機械装置に電力を供給するための配線。非常に高電流を流すことが多いため、太いケーブルが必要で、適切な電流容量と安全設計が求められます。
・信号線(制御回路)
機器間で状態や指示を伝達するために使用される配線。制御信号や状態信号を伝達するために使われ、基本的には一方向で機器の状態や動作を監視・指示するために用いられます。
・通信線(通信回路)
制御盤内の機器間や外部デバイスとの情報通信を行うための配線。動作指令やステータス情報を伝達する役割を担っており、制御盤の動作の精度や信頼性に大きく関わるため、適切な配線と管理が重要です。ノイズ対策、配線整理やラベリング対策などが重要になります。
色分け
当社の場合、基本的に以下の配線色分けルールを徹底しています。
・主となる動力回路→黒
・交流 電源の制御回路→AC200V/黒、AC100V/赤
・直流電源の制御回路→青
製品の仕様によっても異なりますが、多くの場合、各配線(回路)を色分けすることで、配線が一目で分かりやすくなり、メンテナンス時にも目印として役立ちます。

制御盤配線に関連する重要キーワード
綺麗な配線を行うためには、いくつかの重要なポイントがあります。適切な配線管理や整理整頓は、システムの効率性や安全性に直結します。ここでは綺麗で効果的な配線を実現するためのキーワードを紹介します。
・束線
配線ダクトや配線支持器具で配線経路を整理し、同種の線種はまとめて経路を確保することで、ノイズによる誤動作を防ぎ、メンテナンス性も向上します。電線の束が占める空間を小さくし、振動による電線同士の擦れ合いを防止できます。

・フェルール端子
普及が進むプッシュイン端子台に対応する端子です。線末端処理には、耐振動性・導通安定性・保守性の観点からフェルール端子が推奨されています。電線に端子を取り付けるときの圧着が簡単で、ミス防止に効果的である点が利点です。

フェルール端子は、銅線の太さにより導電部の太さと絶縁スリーブの色が異なる
・マークチューブ、ラベリング
メンテナンスやトラブル時の迅速な対応の為にも、回路図との整合性が不可欠で、ラベルやマークチューブなどを使用して、ラベリングを行います。
当社の場合は、お客様の製品仕様やご要望に合わせ、柔軟にラベリング方法を選定するように心がけています。最近は、インクジェットプリンターや熱転写による、電線へ直接印字する手法も採用しています。
その他、ポイントとなる点は以下です。
・ラベルは耐油・耐熱仕様のものを使用し、各端子番号に対応
・制御盤内だけでなく、機体配線との接続部分にもラベリングを徹底
・配線図と実配線が常に一致するよう、施工後の現場修正を図面に反映

マークチューブは、最終的に制御盤に取り付けられる際の可読性とチューブの向きを考慮し取り付けられる
制御盤におけるIoT対応とスマート化の最新動向
現在、多くの工作機械がIoT化に対応しつつあり、それに伴って制御盤内での通信配線の設置が拡大しています。従来のサービスコンセントに加え、PLCやタッチパネルなどの機器もイーサネット接続が可能となっており、それらを統合するためにHUBを搭載した制御盤が増加しています。
さらに、昨今の工作機械の進化により、機械自体が複雑化しています。それに伴い制御する箇所も増加し、制御部分が増えることで配線も複雑になってきています。
しかし一方で、各メーカー様からは小型化や省スペース化の設計を望まれるケースも増えてきています。
そのため 、制御盤のスマート化(小型化・省スペース化)も進展しています。制御盤の設置スペースは限られていることが多いため、小型化や高密度実装は重要な課題となっていて、従来のように実装パネル上に電気機器を横一列に並べる構成だけでなく、立体的な配置を取り入れた「3Dレイアウト制御盤」も登場しています。
制御盤内の奥行きを有効に活用して配線を行うことで、小型化や省スペース化を実現し、省スペース化をかなえる制御盤であり、今後普及が見込まれる製品スタイルです。



結果、3Dレイアウト制御盤は、従来の制御盤に比べ、約30%ほどコンパクトに設計できていることが分かる
まとめ
制御盤配線は、工作機械全体の稼働率や品質を左右する重要技術!
IoTやスマート化の動向も取り入れた配線戦略がカギとなる
制御盤配線は工作機械の信頼性を支える技術の結晶です。
そして制御盤配線は、「ただの配線作業」ではなく、工作機械全体の稼働率や品質を左右する重要な技術分野です。
設計段階からノイズ対策・耐振動性・保守性を意識し、IoTやスマート化の動向も取り入れた配線戦略が、これからの製造現場に求められます。
監修・青木 誠
約20年以上にわたり、制御盤業界に従事し、技術・現場・顧客対応の三つの視点を理解する制御盤のプロフェッショナル。生産技術分野で制御盤やハーネス・ケーブルの設計を担当した後、検査課にて製品検査業務を経験。その後は営業職として、お客様の要望や課題を直接伺い、ニーズに即した提案活動を行う。現在は電気CAD推進業務にも携わる。
参考文献・参考サイト
EPLAN株式会社「制御盤製造4.0」
リタール株式会社「制御盤を構成する2つの回路―動力回路と制御回路」
厚生労働省『3級技能検定の実技試験課題を用いた人材育成マニュアル』